徐京植『フクシマを歩いて ~ディアスポラの眼から』

『フクシマを歩いて』という本を読みました。
副題が、「ディアスポラの眼から」というものですが、
ディアスポラとは、もとはユダヤ離散民をさすけれど
外的な圧力によって故郷から離散して生きる人々のことを
さすそうです。


著者は在日朝鮮人二世で、彼自身がディアスポラなわけです。
そして、ディアスポラは常にマイノリティ。


12月の選挙のとき、
日本はどれだけ右傾化してしまったのだろうと、
恐ろしく感じてたのですが、
この本を読むと、著者がずっと前から日本の右傾化を
憂いていたことがわかり、日本はずっとそういう状況に
あったのだ、と遅ればせながら気づきました。
(ずっと石原慎太郎氏が知事だったのは
右傾化しているということだった)


関東大震災のとき、デマによって6000人の朝鮮人が
虐殺されたといいますが、石原慎太郎のような常に
差別発言を繰りかえすような人が首都の長をつとめているような
国で、私ですら生き難さを感じるのだから、
命の心配だってあったんじゃないかと思います。
(都知事はまたあんなだし)


311まで、知りたくない部分からは眼を背けて生きていました。
だからよく知らないままだったけど、
日本は311前から、おかしい国だった。
(どんな国もそういう面はあると思うけども。
でももっとまともな国だと思ってた)


ネットで断片的知識を得るのとちがって、
本を読むと、いろいろがつながって、
で、頭の中が整理されて、ほっとしました。
日本の状況は全然ほっとするものではないけど、
なんだかわけわからずこわいだったものが、
整理されたということで少し見えてきてほっとするというか。


原発事故から2ヵ月後、5月に小出先生の本が出たとき、
まだ福島の現状は見えてなかったので福島についてはほとんど
書いてなくてチェルノブイリのときのことが書かれていたのですが、
チェルノブイリ時ですでに母乳から
ヨウ素にセシウムが出て、干ししいたけからもでお茶からも出て…
というのを読んで、すでに日本は汚染されてたのか、と知って、
なんだそうだったのね、と却って開き直るように気持ちが落ち着きました。
そのときと同じような気持ちになりました。


「序にかえて」に、プリーモ・レーヴィという人の詩が載ってました。



ポンペイの少女

人の苦悶はみな自分のものだから

まだまざまざと体験できる、おまえの苦悶を、やせこけた少女よ、

おまえはけいれんしながら母親にしがみついている

またその体の中に入り込みたいかのように

真昼に空が真っ暗になった時のことだ。

むだなことだった、空気が毒に変わり

閉め切った窓から、おまえを探して、通り抜けてきた

頑丈な壁で囲まれたおまえの静かな家に

おまえの歌声が響き、はにかんだ笑顔であふれていたその家に。

長い年月がたち、火山灰は石となり

おまえの愛らしい四肢は永遠に閉じ込められた。

こうしておまえはここにいる、ねじれた石膏の鋳型になって、

終わりのない断末魔の苦しみ、我らの誇るべき種子が

神々にはいささかの価値もないという、おそるべき証言になって。

だがおまえの遠い妹のものは何も残っていない

オランダの少女だ、壁に塗りこめられたが

それでも明日のない青春を書き残した。

彼女の無言の灰は風に散らされ、

その短い命はしわくちゃのノートに閉じ込められている。

ヒロシマの女学生のものは何もない、

千の太陽の光で壁に刻み込まれた影、恐怖の祭壇に捧げられた犠牲者

地上の有力者たちよ、新たな毒の主人よ、

致命的な雷の、ひそかなよこしまな管理人たちよ、

天からの災いだけでもうたくさんだ。

指を押す前に、立ち止まって考えるがいい。(1978年11月20日)


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地上の有力者たち、新たな毒の主人たちは今ますます
権勢を誇っていますね。
なんということでしょう。


この詩の作者のプリーモ・レーヴィは、1987年に自殺したそうです。
収容所でみた悪夢は、釈放されて帰宅して自分が経験したことを
一生懸命語るのに、家族すら無関心、というのだったそう。
そして、40年後に死の前年に出したエッセー集では、
どんなに証言してもそれがよく伝わらないことへの焦燥感が書かれているそう。

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いかに証言が伝わらないかということは、言い換えれば、人間にとって
他者の苦難に想像力を馳せることがいかに困難か、ということでもある。
(略)

ホロコーストの証人、プリーモ・レーヴィは自殺した。
ヒロシマの証人、原民喜も自殺した。
彼らを死に追いやったのは証言に耳を傾けず、束の間の安心を
得るために自らの想像力を抑圧した私たちなのではないか?
フクシマの証人たちを死に追いやってはならない。
私たちの想像力が試されているのだ。
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