【本の感想】ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話 』



ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)


父親の、子どもたちへのどなり声でこの本は始まる。
すぐに怒鳴る父、父を恐れながらもおしゃべり好きで明るい母、
姉と、3人の兄と、そして末っ子の筆者の暮らし、友達たちとの付き合いが
描かれていく。


何度も同じ話をする母。
そこからできる合言葉。


家族の中で誰に遠慮することも取り繕うこともなく発せられた言葉の数々が、
行動の数々が、こうして記録されてしまうとは誰も思わなかっただろう。
飾り気のない素のままの人たちが、とてもおもしろい。


音楽を解するふりをしてたけど音楽界にいけばみんなで居眠りをしてたとか、
父はもう音楽そのものを毛嫌いしてたとか、
母はインフルエンザになるとちゃんとした病気になったと喜んで、熱ばかり計るとか。
女中部屋に入りびたっておしゃべりをして、娘に仲のよい友人ができると嫉妬する。


ユダヤ人の知識階級の家庭といえば、きっとアカデミックな会話が交わされていて
優雅なんだろうという想像が見事に裏切られて、何度も笑った。
こんなまじめそうな装丁のこの本でこんなに笑えるとは思ってもいなかった。
家庭の外ではイタリアはファシスト政権に傾いて行っていて、
反ファシストであるこの家でも、父や兄たちが逮捕されたり逃亡したりするのだけども。


それでもおもしろかったのは、彼らが心配しつつも、ちょっとわくわくしていたりするからである。
つい、非日常感を楽しんでしまうのだ。
母親は毎日刑務所に差し入れをもって通い、同じように、反ファシスト的意見を持つために
牢屋に入れられている人の奥さんと友達になったりする。
医者になった兄は、「つまらない。もう誰も僕を逮捕してくれない」と言ってみたり。


でも時代はどんどん悪くなっていき、著者の夫は、獄中死する…。


そんな中でも、父親は相変わらず悪態をつき、母親は孫を「うちの子」と呼んでかわいがり、
志を同じくする仲間たちのことが描かれる。
口ではなんと言おうとも、お互いがお互いを大事に思っているということがわかる。
口に出して「愛してる」とかを言いまくるのではない。罵りながらも、文句を言い合いながらもそこには愛情があるのだ。
何より、著者が彼らを大事に思っていることがわかる。そうでなければ、どうしてあれほど
まわりを仔細に観察し、心にとどめておくことができただろうか。


まわりの人間へのまなざしと、その人たちとの関わりを描くものが、これほどおもしろいものになるものだとは。
そして、こういう時代に自分たちの志を大事に、自分の頭で考えて行動する、
そんな人たちがこうしてふつうに暮らしていたんだということを知ってちょっと元気になった。
いい本を読んだ。
(…10年以上前に一度読んでるはずなのに、まったく記憶がないのがまたおそろしいけど、
そのときは今ほど感動しなかったのだと思われる。)



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