【本の感想】スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)』



スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)


重そう、と思ってしばらく棚に置いてあったのだけど、読みだしたら止まらなくなった。
ソ連では、女の子たちが戦争に行っていた。看護婦とかいわゆる女性の仕事だけじゃなくて、
狙撃兵になったり、飛行士になって敵を殺したり、地雷除去をしていたなんて。
びっくりしてしまった。


彼女たちの話は重い。
自分でも思い出したくないから話したくない、と言う。
でも何もなかったことにはできないと、語る。


初めて人を殺した時のこと、白兵戦で人の体の壊れる音を聞いたこと、
自分より重い負傷者を銃撃戦の中ひっぱって何人も助けたこと、
目の前で死んでいく男たちのこと、目の前で死んだ女の子のこと。


ひどい経験をしたせいで、家族に自分だとわかってもらえないほど変貌した子もいたし、
髪が一晩で白髪になってしまった子たちもいた。
それでも、男物の下着で死にたくない、せっかく国のためにという大きな目的があって戦っているのに
男物の下着をつけているなんてみっともないから死ねないと思ったとか、長いおさげを切るときが
悲しかったとか、銃撃戦では顔と手をかばったとか、女性らしさが随所に現れる。


彼女たちは、だいたいは18歳くらいで入隊している。中には、15歳くらいで年をいつわって
入隊した子もいる。そういう子たちは祖国を守る理想に燃えて、女性にも男性と同じことが
できると思って入隊した。
でも生き残ってきてみれば、戦場にいた女の子たちはアバズレとして見られ、
結婚もできずに、もしくは戦場にいたことをひた隠しにして生きてきた人も多いという。
母親に、「戦場にいた娘がいることが知れたら下の二人の娘が結婚できなくなるから」と
追い出された人の話もあった。
男性が英雄視されたのとはおおちがい。


この話で証言している人たちはたくさんいる。
この人たちは、ずっと、戦争の思い出を抱えて生きている。
何度も泣きそうになった。とくに、愛の思い出。


だんなさんと一緒に従軍して、だんなさんが死んでしまって、その遺体を故郷に連れて帰ると
訴え、そして連れて帰った話とか、恋をしていた上官が闘いで亡くなって埋めるときにキスをした話とか、
だんなさんが戦場から帰ってこなくて、帰ってきてくれたら、足がなくたって大事に大事にしたのに…とか、
だんなさんが夢に出てきて、ジプシーに夢占いと呼び出し方法を教えてもらって、何度か呼び出したけど、
そのたびにだんなさんがものすごく泣いているのでかわいそうで呼び出すのをやめた、とか。


人の数だけ物語があって、それがひとつひとつ、とても重い。


抜きやすかったのをひとつだけ抜粋。

アンナ・イワノーヴナ・ベリャイ(看護婦)
戦闘は夜中に終わりました。朝になって雪が降りました。亡くなった人たちの身体が雪に覆われました……その多くが手を上に上げていました……空の方に……。「幸せって何か」と訊かれるんですか? 私はこう答えるの。殺された人ばっかりが横たわっている中に生きている人が見つかること……



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